ほんの少しの沈黙の後、秀平は私たちの横を通り過ぎると、何もなかったかのように自分の下駄箱を開けた。

私がタケルに抱きしめられているのを見たはずなのに、何も言ってくれないんだね。

「何も言わないのかよ…」

その様子に腹を立てたのか、タケルがぽつりとつぶやく。

「───何を言えって言うんだよ」

秀平は私たちを振り返り、溜め息混じりにそれだけ言って靴を取り出した。

私たちはもう無関係なんだから、秀平がそう言うのは当たり前。

だけど私は耐え切れず、タケルを押し退けてこの場から逃げ出す。

「秀平、お前な…」

後ろでタケルがそう声を荒げたのは分かったけど、私はただひたすら駅まで走った。

ショックだった。

タケルの気持ちを知ったことも、抱きしめられたことも驚いたけれど。
何より、それを見た秀平が何も言ってくれなかったことが悲しくてたまらなかった。


その夜はよく眠れなかった。
明日、どんな顔をして学校に行ったらいいのか分からない。
目を閉じても、秀平とタケルの顔が頭から離れなかった。