「こっちはどうですか?」


「んー…あ、風呂とトイレが一緒になってるからダメです」


「じゃあこっちは……」


「……築四十年って古くないですか? それに、××町から少し遠いし」


「では……」


「予算オーバーなんで無理です」


「……お客さん。本気で部屋探してるんですか? そんなこと言ってたらいつまでたっても決まりませんよ」


 不動産のおじさんはため息をついて言った。




 今日、俺は不動産に来ていた。

 それは、もちろん、物件を探すためだ。


 俺は、一人暮らしを始めることにしたのだ。


 何でいきなりそう決めたのかというと、それは、ナツと一緒にいる時間が増やしたいから。


 今まで通り、実家で親と住んでるより、俺が一人で暮らした方がいちいち気を使うこともないし、ナツとの時間は増えるんじゃないか。そう思った俺は、即決で、微妙な顔した両親を納得させた。


 で、今こうして物件を探してるわけなんだけど……なかなかいいところがない。



「だいたい、お客さんの言う条件だったら厳しすぎてなかなかありませんって。少しぐらい妥協しないと」


「そうっすかねぇ」


 俺が求めた条件は、家賃八万以内で××町の近くで彼女を呼んでも恥ずかしくない部屋、だ。


 家賃があんまり高いと生活が厳しくなる。××町はナツのコーポのある場所だ。せっかくだからその近くに住みたい。それでナツを呼ぶんだから、狭いとかボロいとかは却下だ。


 でも、やっぱり世の中そう甘くない。条件通りにはいかないみたいだ。


「……じゃあ、家賃上げます。八万五千円」


 場所と部屋の状態は譲れない。そうなると、妥協できるのは、家賃だけだ。


「五千円ぐらいじゃそう変わりませんよ」

 おじさんはファイルを捲りながら言った。


「じゃあ……九万で」


 これ以上は無理だ。正直、九万でもかなり厳しい。貯めてたバイト代があるにはあるけど、これから色々使うだろうし、生活が苦しくなりそうだ。


 でも、ナツのために頑張ろ!