秀樹と直樹が、高校野球に出場のため、高校の用意したバスで甲子園球場に向かって出発して行く。

それを見送った正樹と美紀も、その場から車で大阪に向かって出発しようとしていた。


美紀はまだ、一度も助手席に座ったことがなかった。

其処は何時も珠希の席だった。

だから子供の時から後部座席だったのだ。


死後五年を経ても尚、ママとしての存在感は不滅だったのだ。

それは、娘にとって脅威だった。
だからまだ、一歩を踏み出せないでいる美紀だった。




――カチャ。

意を決して、初めて助手席側のドアを開けた。


(――ママ許して……

――私パパの隣に座りたい。どうしても座りたい!)


足をマットに置こうとやっと一歩踏み出してみた。


でも駄目だった。

又乗ろうと試みてみた。
そして又決意が揺らぐ。