「最近楽しそうだね」


ふいに比奈が聞いてきた。


「え?」


びっくり―――した……


だって別れて以来比奈から声を掛けてくることなんてなかったのに。


「楽しそうって言ったの。新しい彼女でもできた?」


探るように比奈が目を上げる。


「……いや…できてないけど…」


“あれ”は俺の中で“恋人”ではない。


でも―――他人から見たら楽しそう……に見えるんだ。


「最近のヒロ見て思ったの。ヒロは変わったって」


ヒロ―――……


比奈にそう呼ばれるのは随分久しぶりだった。


くすぐったいけれど―――あの心躍るような嬉しさを微塵にも感じなかった。


何か……変なカンジだ。


「……そうかな?」曖昧に返すと、丁度エレベーターは一階に到達した。


重い鉄の扉が、ガー…っと音を立てて両側に開く。


だけど比奈は降りようとしない。


「降りないの?」そう聞いてみると、比奈は俯いたまま“閉”のボタンを押した。


??


俺が首を捻ると、比奈は俺のスーツの上着の裾をおもむろにちょっとひっぱった。





「ヒロ………あたし…あなたとやり直したいの」