薄らがかっていた視界が、一瞬にして鮮明さを取り戻す。

 地面に横たわる僕を見おろすように立つマリアさんの背中から広がる、大きな翼が黒く光を帯びているように見える。

 小百合さんがいるのにこんなところで翼をだしていいのだろうかと、小百合さんの姿を目線だけで探そうとして……気が付いた。



『時が……止まってる?』



 風に煽られ宙に裾を舞い上がらせたまま静止した、アパートの階段の手すりに干されていたタオル。

 空に浮かぶ雲も動く気配すらみえない。

 電線から飛び立とうとしたところだったのだろうか、羽根を広げて、少しだけ足を宙に浮かせたまま固まっている雀。

 小百合さんはマリアさんの後方で、頬を涙で濡らし僕のほうへ手を伸ばし駆け寄るような姿勢で、口は何かを叫ぶように大きく開かれたまま。

 全てが、その時の進みを突然奪われたかのように、止まっている。