急ぎ足で図書室に入る。 
 彼は司書室でラベル貼り中。
「おっはよーう」
 声のほうに目をやると隣のクラスの山下さんが受付席で携帯をいじっていた。
相変わらず胸まで伸びたストレートの髪が綺麗。
「おはよう、今日の当番山下さんなんや」
「そうそう、それよりさ!」 
 窓からそよぐ風に髪をなびかせ、山下さんは意地の悪そうな顔を寄せてきた。
「委員長の渡辺くんと付き合ってるんやろ?」
 な ぜ そ れ を。
「ああ……うん」
「えーっえーっ何なん?何で? どこが好きなん?」
 んと、どこだ?
「でもええやん、賢いし背高いし顔もまあまあ男前やし。ちょっとオタクっぽいけど」
 賢い、背が高い……そんな目で見ていなかった。
「男前か?」
 言葉って素直だ。
「男前やん。似てる芸人おるやん。ほら、あの、あ、ジャルジャルの左側」
「わからん。金持ちじゃないほう?」
「わからん。左側のほう」
「左側のほうね」
 多分、金持ちじゃないほうのことだ。
「そうかー、男前か」
「うわ何ノロケ? えーなー、あたしも男欲しい!」
 一年に三人彼氏が出来る人間が何を。
「どうしたん? 一個上の人と付き合ってんねやろ?」
「えーもう別れるよ」 
 その¨恋愛に対してのウェルカム感を出しつつ何かあれば彼氏がいるからという防御になる¨都合の良い台詞は何だ。
 そして何故それを私に言う。
「てゆうか何で知っとん?」
「いや二人で弁当食べてたら気づくし」
 そりゃそうか。
「でもあんま喋ってへんかったやん。仲良くないん?」
「そんなことないよ」
 山下さん、貴方ストレートに言い過ぎ。
 でもなんかこの人には言える気がする。
「なんかねー重いのよ。付き合うっていうくくりが」
「えーアカンよ体だけの関係は」
 間違えた! このお方を誰だと心得る、バイトを選ぶ基準は「可愛いバイトが少ないところ」、教育実習生には基本手を出す、
だけど髪の毛を染めずにメイクも薄めにして男の前では処女ぶる
山下友美さまでるぞ!
「いやそんなんじゃ」
「アカンよーそりゃ女だって性欲あるけどさ」
 違う。全然違う話になっている。
 でもどこか心の中がスッキリした。