「何、やってるの。しっかりしろよ」

笑いつつ悪態をつきながらも、差し出してくれる佐久間主任の手は優しい。

でもちょっとムカついたから、佐久間主任の手を軽~くパスしつつ、返事を返す。

「次回、注意します!で、インベントリーがどうかしましたか?」

「ああ。これなんだけど、ほら、この政保債(政府保証債)のこのゾーンのレート、おかしくない?」

「……甘い、ですか?」

「ビンゴ。じゃ、全部回収してすぐにデータを直して打ち出して来て」

「え……っと」

「急げ!後1時間もしたら他の社員が来るぞ」

佐久間主任はクルリと踵を返して席に戻ろうとする。

「さ~く~ま~しゅに~ん。すみませ~ん!出来ませ~ん……」

佐久間主任は、ぎょっとした顔で、蚊の鳴くような声で答える私の方に戻ってくる。

「出来ないって、お前、一体、どんだけトレーダーしてんだよ!」

「……いっ、1、年、と、1カ月……」

「だったらできるだろうが!」

ひぇっ!

さすが、佐久間主任!奥田課長の愛弟子だけある。

こぇ~です!

肩をすくめてフルフル震えながら、頭をかばう私の目の前で呆れたように佐久間主任が溜息を吐く。

「だって、入力確定後のデータ修正は習ってなかったんです」

佐久間主任の怒りの波動は課長クラスに恐い。

「そ、それに、まだ、新人はデータをいじるなって……」

佐久間主任は、再度、ふぅ~と溜息を吐くと私の頭をポンと叩く。

「分かった。行くぞ、システム室」

「え?」

「俺がデータを修正する。それならいいんだろう?」

「は、はい!」

「急げ!後50分。ダッシュだ」

「はいっっ!」

佐久間のSは『佐渡島のサド鬼』だったはずじゃ、なんて、心の声に頭を振りつつ、荷物を掻き集めて、必死に彼の後を追って走る。