それから、数時間後。

課長は、マレーシア行きの飛行機に乗って、約1ヶ月の出張に出掛けていった。

淋しい……。

すごく、淋しい。

今まで、何度か課長とこうして別れたときがあったけど……。

今までとは比べ物にならないくらい、ものすごく淋しい。

今分かれたばかりなのに、もう会いたくて会いたくてたまらなくなる。

空港の椅子に腰掛け、課長が置いていった分厚いクッション入り封筒をじっと見つめる。

「俺がいない間の仕事だ。帰るまでにやっておけ」

だって。

甘ラブモードが終わると、すぐに仕事を出してくれる辺り、さすが鬼。

はぁ~。

鬼なんかに恋しちゃった、私の悲劇じゃ。

課長に甘い言葉のひとつでも掛けてもらいたかったら、ザコキャラからもう1レベルアップして、いい女にならなきゃいかんのかもね。

とりあえず、どんだけあるのよ、私の仕事。

あまりにも膨大な仕事の書類を、課長の首を絞めるみたいにギュッと抱きしめると、その中に、何か硬い物が入っていることに気付く。

「なんだろう?」

ガサゴソと封を開けて、危うく泣きそうになる。

『好きなときに、いつでも』

封筒には、ぶっきらぼうなメッセージと一緒に、課長のNYと東京のマンションのスペアキーが入っていた。