じっとケイタイを見つめる。

でも、仕方ない。

不可抗力ってやつです、課長。

愛か、与作兄ちゃんから充電器を借りて充電するから、それまで待っててくださいね!



それから、数分後、タクシーは病院の入り口付近に止まる。

急いで病院へ駆け込み、面会名簿に名前を記入し、バッチを胸に付けると、エレベーター目指して急ぎ足で廊下を歩く。

丁度、来たばかりらしいエレベーター発見!

なんとかぎりぎりセーフで滑り込む。

「何階でお降りになられますか?」

『開』ボタンを押しながら、その女性は尋ねてきた。

見れば、抜けるような真っ白な肌の色をした仲間由紀恵ちゃんクラスの絶世の美女が、これまた真っ白なスーツを着て、大きな花束を持ってエレベーターに乗っていた。

40代?
ううん。30代くらいかな……。


でも、私を見るなり、その女性はじっと私を見つめながら首をかしげている。


「あ、すみません。3階でお願いします」

息を弾ませながら、答えたのだけど、それでもじっと見つめたまま無反応だ。

「あのぉ?」
「あ、あらごめんなさいね。でも……私たち、どこかでお会いしたことがなかったかしら?」

そう言われても、こんだけの美女、会ってたら絶対に忘れるはずもないと思うけど。


「すみません。お会いしたことはないような気が……」
「そうですか……。唐突に、ごめんなさいね」
「いえ」

ほんのりと頬を赤らめながら、女性はそっと花束で顔を隠す。

奥ゆかしいぞぉ~。

女が見とれる女ってこういう人を言うのかも。


3階に到着し、会釈してエレベーターを降りる。
と、同時にたくさんの看護師さんやらドクターやらが、ドヤドヤと乗り込んで、女性を奥に追いやっているのが見えた。

誰だったんだろう。
でも、どんなに考えてもやっぱり思い出せない。


う~ん。
気になるけど、今はとにかく、ふみねぇの部屋を探さなきゃ。

ナースセンター目指して、歩きかけていたとき、背後からあの女性の声が聞こえた。

「あ!思い出したわ!!杉原さん!!あなた、杉原由紀さんではなくて?!」

えっ?

振り向いたそのとき、エレベーターの扉がピシャリと閉まった。