トイレに駆け込むと中から鍵を掛け、ふたの上に腰を下ろす。

「はぁ~。しっかりしなきゃだよ」

ほてった頬をパン!と叩いて気合を入れ直すと、「よっしゃ、戻るべ!」とすっくと立ち上がる。

と、その時、携帯が揺れる。

着信だ。
まさか、またかぁちゃん?
こんなに何度も何度もどうしたんだろう。

急いで、携帯を取り出そうとした時、外から二人連れらしい女性が話をしながら入ってきたことに気付く。

『だ・か・ら、楽勝よ。あんな従業員の女なんて、ミスター奥田にはどうみたって不釣合いよ』

『そうよね~。さっきみたいに、「料理がおいしかったわ~」なんて言って、追い出せばいいのよ。あの程度の女には厨房がお似合いよ』


え?!

早口でよく聞き取れない英語だけど、どうやら自分のことを言われているらしいことはなんとなく分かる。

しかも、悪口っぽい。

パンプスをそぉ~っと脱いで、ふたの上に乗り、扉の上から見下ろして、息を呑む。

あの黄色いドレスの女性は、さっき私の料理を褒めてくれた女性だ。

あれは……

あれは……

ホントは、私の料理を褒めてくれたんじゃ……なかったの?


悔しい!

悔しいよ!!


今にも倒れこみそうな気持ちにぐっと力を入れて、覗き込んでいた扉の上から何とかソロソロと降りる。

そんな私の存在にも気付かず、二人の会話は続く。


『彼には不釣合いよ。あの程度で満足するんだったら、私、楽勝で落とせるわ』

『何言ってんのよ!私が落としてみせるわ』

『言ったわね~』

楽しそうに二人はケラケラ笑って化粧室から出て行く。

そっかぁ。

純粋に料理を褒めてくれたわけじゃなかったんだ。

怒りよりも、ショックの方が大きい。


そういやぁ、似たようなこと、以前、佐久間主任にも言われたことがあったっけなぁ~。

「不釣合い、かぁ~……」

痛いところを突かれた。

今まで数々落ち込んだことあったけど、これはさすがにメガトン級だ。

ずっと鼻水を啜って、携帯のバイブを解除すると同時に、ダッダッダダァァァ~ンと運命の着音が流れる。

かぁちゃんからだ。

急いで、電話に出る。

「もしもし?」

「あーー!やっと出たたい!!今まで出らんで、なんばしよったとね!!富美代が…富美代が、意識不明の重体やとけ!!」