KY横田に手を合わせつつ、目を閉じて心の中で南無南無していると、調理室の窓際の方から黄色い声が挙がる。

何だろう?

片目をそっと開けて、ちらりとその方角を見る。

「キャーーー!ミスター奥田の到着よぉ~!!」

「いや~ん!!素敵!!クールよねぇ~、彼!!」


ぶほっ!

背後からドンッ!と押し倒されて壁にぶつかる。

「いたたた……」

私が頭をさすっている間にも、窓周辺には一気に人垣が出来る。


課長、恐るべし。

さすが、社内の女子社員達の人気投票で今年ついに殿堂入りしただけある。


「すごいもんだ。奥田さんの人気はワールドワイドだな」


いつの間にか私の隣に立っていた佐久間主任が腰に手を当て人垣を見てる。

人垣を掻き分けて窓の隙間から見ていると、課長が丁度、ロールスロイスの後部座席から降りてくるところだった。

そして、黄色い声がすぐにどよめきに変わる。


「え……?一人??」

「まさか…………」

「うっそぉーー!お相手の女性はいないのぉ?」


課長は車から降りるとすたすたと一人で歩き始める。

アメリカ女性たちの目が、まるで獲物を追うハンターのように一斉に妖しくキラ~ンと光る。




ああ……。

課長、すみません。

乙女杉原、一生の不覚でございます。

せっかく、ドレスまでご用意して下さったのに……。


「なぁ、もしかして、これって、ドレス?」


声のする方にクルリと振り向くと、佐久間主任が私の持ち込んで来た箱を両手に抱えて立っていた。