「杉原!おい、杉原!」

課長の呼ぶ声にはっと我に返る。

「飛ばし過ぎだぞ」

「えっ?!」

「140出てる」

ちらっとメーターを見る。

時速140km。

どんだけ、『頭文字D』になってたんだか……

そろそろとスピードを落とす。

「次のサービスエリアで俺と交替しろ。良く頑張ったな」


初めて掛けてもらった課長のネギライの言葉に、ぶわっと熱いものが込み上げて来る。


「こんなことで泣くやつがあるか」


課長が苦笑いする。


そして、何だか、そのままずっと課長が私を見ているような気がする。

こそばゆいような……

落ち着かないような……

ハンドルを持つ手が小刻みに震える。


「課長、あの……私の顔、何かついてますか?」

「あ、いや」

課長は前に向き直る。

「ちょっと考え事してた」

「何をですか?」

だけど、もう一度、課長のじっと私を見つめる眼差しに、ガチにぶつかってしまう。

切れ長の美しい二重の瞳が今もじっと私を見つめている。

やだ。

変だ。

息が速くなってる。

その上、ドキドキなんてしちゃったりもするのは、なぜ?

「お前のことだよ」

「わっ!私のことっですか?!」

声がみっともないくらい裏返る。

ちらっと見た課長の顔が、セクシーにすら見えちゃうなんて、脳がズンドコダンスをしているに違いない。

課長は、顔だけはイイだけに始末に負えない。

「思ったんだ。きっと、お前は、神様が仕掛けた俺の人生の……」

胸がドキンと跳ね上がる。


かっ、課長、いけません!

私、ダメです。

オフィス・メイク・ラブは対応不可能です。


お見合い専門で、一気に勝負を賭ける方が……


バクバク乱れ打つ私のヤワな心臓に「最大の試練だな」と、無情な課長の言葉がトドメを刺す。