ある始まりは、今思えばこの日だったのかもしれない。

ぐっと頭の中を何かに占領されたみたいに、自分が分からなくなった。

「…っ。」

気がつけば声を押し殺して泣いてた。
なんでかは…分からない。
急に何かが悲しくなって、不安になって、怖くなるの。
本当にいきなりの出来事。

この時私は本当は分かっていたんだと思う。
"なにか"の正体。
だけど言えなかった。
言葉や文字にしたくなかった。
最後まで、その正体はあの人には言えなかった。


「美佳…ご飯食べなさい。」
「…。いらない。」

こんな日々が続いた。
親は分かってたんだろう…その正体を。
私の代わりにお父さんが口にした。

「先生は…何してんだ。」
「塾。」
「美佳がこんなになってるのにか!?」
「先生は関係ない!!先生のせいじゃない!!」

必死に否定してた。
親にも自分自身にも。

こんな会話を泣きじゃくりながら何回した事だろう。
塾に乗り込むって言われて、泣きながらご飯食べて、結局吐いた日もあった。
わけもわからず夜中出歩いたりもした。
自分がおかしくなっていくのが分かった。

そう…先生。
不安定な関係のままだから…だったのかな。
分からない。
本当はすごく不安だったの。
家の事も先生の事も。
でも必死に隠してた。逃げてた。
先生は試験だから、今私が弱気になって、頼って邪魔しちゃいけないんだって思ってたから。

でもある日私は、中学校で1回して以来の…リストカットをした。

「…っ。」

痛かったよ。怖かったよ。
もう何がなんだか分からなくて、この日やっと…何かを隠しながら不安を先生に少し打ち明けたよね。