翌日から、私は熱を出して寝込んでしまった。

あの日、飯島剛に謝罪するとそのまま別れ、私は重い気持ちで駅に向かった。


その時、初めてお財布を忘れていることに気付いた。

仕方なく、というよりは半ばヤケになって豪雨の中マンションまで5時間の道のりを歩いて帰った。


「バッカじゃねぇーの。電話すりゃ迎えに位行ってやったのに!オレ、迎えに行かないほど鬼畜じゃないし」

医者の卵の片岡和人は私の頭にべしっと濡れタオルを叩きつけると、またあのニヒルな笑いを浮かべた。


ああ、チクショー。
やっぱ、好きだ・・・・・・。

熱の勢いも手伝って、私は独り言でも言うみたいに彼に尋ねた。

「ねぇ、あの日、用があるとか言ってたけど、ハルナちゃんと会ってたの?」

ずっと一番気になっていたことを私は聞いてしまった。

「ああ。会った」

片岡和人は本棚に手を伸ばしながら、素っ気なく答えると私の部屋にある辞書を手に取り、「借りるよ」と言って部屋から出ようとした。


そして、ドアノブに手を掛けると「オレ、あいつ抱いたから」と私に背を向けながら言った。


「え?!抱いたって・・・・・・」

「無理矢理だったけどな」

私はショックのあまり言葉が出なかった。

あんなに大事にしていたハルナちゃんをレイプしたってこと?

「どうしてそんなひどいことを・・・・・・」

「抱かなかったら俺は一生あいつの『いいおにぃちゃん』のままで、あいつがトオルってヤツのものになるのを指をくわえてみているだけなんだ。だけど、抱けば一生憎まれても、あいつの中でオレは『男』として刻まれる・・・・・・。同じ後悔をする位だったら、オレは後者を選ぶ」

私はそこまで悲愴に満ちた彼の決意の前にもう言葉が続かなかった。


こんなにも激しい愛があるなんて……

私は、片岡和人は凄くクールで冷たい男だと思っていた。

そんなはずの彼の仮面を剥がしたのは、ハルナちゃんだったんだ。



「でも、そんな卑怯なオレをあいつは愛していると言ってくれた。ホント、・・・・・・地獄だな」


彼は何かを思い出したのか切なそうに笑うと、目を伏せたまま部屋を去っていった。