リラックスする。
肩の力を抜く。
身体の内側の熱い塊の中で、エネルギィを爆発させる。
一度に全てが身体中に散る。
両手の指先からほとばしる、電流。
閃光。
爆音。
オレンジ。
残骸。
破片、破片、破片。

もう一度。

今度はエネルギィを溶かす。
ゆっくり且つ大胆に掻き回す、均衡。
プラズマ。
磁界。
浮遊、沈降、崩壊。



力を解除する。
一瞬に、
残酷に、
元に戻る、世界。
という名の室内。
俺は砕け散った破片を素足で踏み潰した。
グジュっ、と鮮やかな音をたてるオレンジ。

「荒れてんなあ」
突然の同僚の声に、カタリと音をたてて開いた扉に目を向けた。
「なんか用か。ルーファス」
煙草をくわえたまま、彼は、こちらに近づいてくる。
「Westのエースが聞いて呆れるな、サルバ。相棒がいなくて寂しいか?」
「トレーニングだ」
彼は水を差し出した。
口をつけると、生ぬるい水だった。
「ぜんぜん衰えないな、お前のレールガンは」
指先から流れる電流を使って、物体を弾丸のように飛ばす力。
電流と磁界を自由に操る俺の特殊能力の1つだ。
「鈍ってるさ。人を殺してるわけじゃない」
彼は眉を寄せ、言った。
「だからって、食べ物は粗末にするもんじゃないぜ?どうやらエース様はオレンジに恨みでもあったのか?」
俺は答える。
「いや、ないな。彼女はグラマラスで情熱的だ。悪くない」
「お前のジョークもな」ニヤリと口の端を持ち上げ、彼は笑った。
「飯は?」
「まだだ。シャワーの後に行く」
俺は汗ばんだTシャツを脱いだ。
「そうか、ならいい」
彼は来た道を戻っていった。

自室に戻ってシャワーを浴びた。
ふと、洗面台に置かれた歯ブラシに目がとまる。
1ヶ月近く、その主は彼の前から行方をくらましている。
唯一、この世界で死ぬほど美しいと思った。
彼女は、いつも唐突に姿を消す。
だが、必ず帰ってくる。
そうでなかったことは一度もない。
ああ、待てるさ。
俺はお前と戦場を待っている。
今なら彼女の昔言っていたことが、わかる気がする。

“ここには本物の正義は存在しないよ”

ああ、そうだ。
だから早く帰ってこい。

俺は癖のある髪を1つにくくって、部屋を後にした。