入学の祝いにと、小野寺のおじさんにもらった腕時計をつけ、理子は高校の入学式に行った。

式もつつがなく終了し、いよいよ教室へ。

中学では飛びぬけて成績の良かった理子。

美原高等学校に進学したのは、理子の中学では彼女しかいなかった。

…席に座り、緊張した面持ちで俯く。

心臓がさっきからうるさい。

(どうしよう…)

表情が強張る。

(みんな知らない人ばかりだよ…)

理子は孤独である事に免疫がない。

何より一人でいる事が怖い。

いつもそばに見知った誰かがいないと不安になるのだ。

周囲にいるのは別の中学から来た生徒ばかり。

それぞれがグループに分かれて談笑しているというのに、理子だけが孤立している。

一人でいる事に、いよいよ涙が溢れそうになった時。

「中学時代に陸上の大会でタイトルを総なめにした早川理子さんっ」

突然名前を呼ばれて、思わず振り向く。

途端に顔の前に突き出されたのは、マイク代わりのボールペン。

「高校での抱負などを一つお聞かせ願えますかっ?」

そう言って微笑んでいたのは、手帳片手におどける九重華鈴だった。