中井 秀一(なかい しゅういち)は考えていた。

乗用車同士が追突し、あちらこちらで火の手が上がり、阿鼻叫喚が響き渡る街の中を走りながら考えていた。

…この国はいつもそうだ。

認識が甘すぎる。

政府の管轄下に置く?

しばらくの間は静観する?

何言ってるんだ!

早いとこミサイルでも核爆弾でも使って、焼き払ってしまえばよかったんだ。

上の連中は何もわかっていない。

『連中』の恐ろしさも、周囲に与える影響も。

際限なく増え、食らい、そしてまた増える。

そうやってやがては、この街だけじゃない。

世界中を覆い尽くしてしまうかもしれないんだ。

「……っっ」

振り返り、背後に迫る光景に目眩すら覚えながら。

彼はほんの二時間前の、まだ平穏な朝の事を思い出していた。