獣の呻きのような声が響くフェリーターミナル。

時折聞こえる引き摺るような音は、ゾンビの足音だろうか。

それも一人や二人のものじゃない。

建物内の通路を何度も何度も行き交う、摺り足の音。

決して素早くはないが、いつまでもどこまでも執拗に追跡してくるようなその足音は、否応無しに恐怖心を掻き立てる。

…みんなは上手く逃げられただろうか。

ドアの向こうから聞こえてくるゾンビ達の足音を聞きながら、奏は息を殺してそんな事を考えていた。

完全に出遅れていた。

フェリーターミナルロビーのドアがゾンビ達に突破され、散り散りになった仲間達。

秀一や小野寺、同じ女性の夕映でさえ要領よく逃げたというのに、奏はゾンビ達が殺到してくる混乱と喧騒に翻弄され、脱出経路を確保する事が出来なかったのだ。