どんよりとした鉛色の雲が空を覆う。

その雲の色が映り込んだような灰色の海は、うねり、白波を立てている。

この分だと嵐になるかもな。

島への唯一の交通手段である連絡船は日に数便のみ。

それが天候不順で欠航になったりしたら、島に閉じ込められてしまう事になる。

そんな事を考えながら、小野寺亮太(おのでらりょうた)は舷窓から外の様子を眺めた。

本土から船に揺られる事約一時間。

彼は今、陰島(いんのしま)という小さな島に向かっている。

人口3万人ほど。

瀬戸内に浮かぶという事もあり、気候は温暖。

農業ではミカンや八朔などの柑橘類の栽培が行われている。

かつては除虫菊の栽培が盛んだったが、産業としての栽培は廃れ気味。

工業では造船業が主力産業である。

年々高齢化が進み、島には若者はほぼいないに等しい。

それでも美しい景色と新鮮な海の幸を求めて、少なからず観光客が訪れている島だった。