「あっ!そうだ。ねぇ、先生?」
「ん?」
俺は俯き、膝の上で力強く握られた拳を見ながら返事をした。
「4月くらいだったかなぁ?先生、駅で女の人と話してたでしょ?」
「あぁ」
「あの人ね、あやめがいた空野園っていう施設の職員さんなの」
「えっ?」
俺は顔を上げ、佐原を見た。
「あれぇ?先生、泣いてるのぉ?」
ニッコリ微笑んだ佐原は、俺の顔を覗き込み、甘える口調でそう言った。
「はっ?何言って……」
否定しようとしたけど、目に入って来た佐原の顔が歪んで見えて……。
目が悪いからではなく、メガネをかけているのに歪んで見える。
それは俺の目に溜まった涙のせいだとわかったから途中で否定するのをやめた。
「あやめの生い立ちに同情しちゃった?それとも……」
佐原はそこで言葉を切ると、意味深な笑みを顔に浮かべクスクス笑った。