タケル君が来なくなって。


またわたしは1人で仕事をする日々が続いた。


それも慣れては来たのだけれど。


やはり効率が悪いせいか、売り上げは伸びず、逆に下がる一方だった。


やっぱりすっぱり辞めるべきなんだろうか。


でも、できる仕事は限られているし、パートの仕事ではもらえる給料も知れている。


どうしたらいいのか、思い悩み始めた時だった。


千葉にいる兄から連絡が入った。


『大事な話があるから、一度帰ってきてくれ』


なんだろうと思いながら、わたしは3人の子供たちを連れ、千葉へ向かったのだった。


「遺産?」


兄の口から出てきたのは、意外な言葉だった。


「ああ。俺も知らなかったんだけど―――10年前にお祖父ちゃんが亡くなった時、土地も含めて母さんに遺産が残されてたらしいんだ」


母の実家は成城だった。


高級住宅街のそこに、祖父が土地を持っていたことは知っていたけれど。


祖父が亡くなった時に母達4人兄弟が話し合い、都に委託して都営住宅を建てることになったと聞いていた。


遺産の話もちらっと聞いてはいたけれど、雀の涙ほどだったと聞いていたけれど・・・。