ケータイ小説 野いちご

(短編)フォンダンショコラ

忘れられないひと

今年も、この季節がやって来た。

どこのデパートにも、どこのショッピングモールにも、どこのスーパーにも、「バレンタインフェア」という文字が並んでいる。

興味津々といった顔で、女の子たちはラッピングや、綺麗に包装されたチョコレートを眺めている。

残念ながら、今年もあたしには特に関係がない。仕事帰りで疲れていることもあってか、ろくに目もくれずにその浮き浮きとした場所を通り過ぎた。



バレンタイン自体が、嫌いなわけじゃない。

あたしは自他共に認めるくらいのチョコレート好きだ。その好きさ加減は、まさに中毒と言ってもいいと思う。

けれど、バレンタインという枠にはめられた「チョコレート」には、何となく手が出しづらくなってしまう。


しかしチョコレート自体は大好きだし、お菓子を作るのも好きなあたしは、今年も友チョコ、いわゆる友達や仕事仲間にあげるチョコレートだけは作ろうと決めていた。


今年は何を作ろうかな・・・。


そんなことを考えながら、仕事場から程近い、この一帯では一番大きな本屋へと入った。


真っ直ぐに、料理本コーナーへと向かう。やはり、バレンタインコーナーというのが出来ていた。本屋によく見られるポップに、「これさえ読めば、料理下手なあなたでも完璧に美味しいお菓子が作れる!」と書いてある。その手前に山積みにされたバレンタイン用の薄い本を手に取った。

パラパラと適当にめくっていると、目に飛び込んできた、ピンク色で大きく書かれた「フォンダンショコラ」の文字。その下には、見事に美味しそうなフォンダンショコラが載っていた。



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