明治八年東京、春






「ひったくり!捕まえて」






若宮小春は叫んだ。





「こんな着物じゃなければ追いつけるのに」



小春はつぶやいた。






浅木誠が住所が書いてある紙を持ちながら歩いていた。








東京の街は初めてだ。



人が多くてそれをよけながら歩くのには馴れてない。







小春の叫び声が聞こえきた。





間を置かずに、



彼の方に男が走ってきた。






男が彼の横を通り抜けようとする瞬間、


彼は素早く、



小春の風呂敷を取り上げた。




ひったくりが、


はずみでずっこけて転んだ。





小春が近づいてくる姿がみえると、



男は慌てて立ち上がって、



逃げた。






息を弾ませてきた小春に


浅木は包みを返した。




「あ、




 ありがとう」



小春は礼を言った。


「あんなやつは、



 交番に突き出さないとダメなんだよ。


 癖になるから」