キュッ、と微かに音を立てて僕の足が部屋の前で止まる。



中に入らずに、“いるはず”のベットの方に視線を向けると、そこには綺麗に掛け布団が畳まれたベットがあった。



「……またか」



ボソッと言葉を落としながらベットに近づく。



PHSを取り出して岡本さんの携帯へと電話をかけても、電源が入ってないらしく繋がらない。



多分……そう心の中でいるだろう場所を確信しながら窓の外を見ると、見えた。


もしかしたら違うかもしれないけれど、ベンチに人がいる。



僕は再び階段へと向かって足を進めた。




僕がなるべく岡本さんから目を離さないようにしているのに、岡本さんはそれをかいくぐってどこかへと行ってしまう。



僕も、四六時中岡本さんばかりを気にしている事も出来ないから仕方の無い事だけど。




……居場所は分かる。



大体、あの中庭のベンチ。




岡本さんが病院の外へと抜け出す時は、絶対にベットの周りにあるカーテンを閉めて行く。



それが全開に開いていた今日は……きっと。



中庭だろうな。


僕が見た人が岡本さんかどうかは分からないけれど、多分そうだろう。



もうどんどん寒くなって行くと言うのに。




……きっと体も冷えてるはず。



僕は一回の売店へと入って、自分用にコーヒーと、岡本さんにホットレモンティーを買った。




甘いものが好きそうだから、甘いジュースを買ってあげたい。



そう思うけど、できない。



彼女の発作を誘発してしまう可能性があるから。