あの一件から、数日が過ぎた。


 勘違い、かも知れないけれど。少しずつ、あたしたちの距離は、縮まっていっているように感じる。


 人前では、一問一答にも及ばない程度の、会話と言えそうにもないやりとりしか出来ないけれど。お昼だとか、そういう二人で共有された時間の会話は、そっけなくとも楽しかった。


 時折見せる柔らかい表情は、笑顔じゃなくてもとても貴重で、大切で。見つめる程に、全部の表情が好きになる。


 形容するなら、所謂ツンデレ。これしかないと断言できる。二人の時ですらツンの割合の方が高い気もするけれど。


 どこか気紛れな猫のようで。ますます夢中になっていくのが、自分でも分かる。



「及川」


「は、はい?」



 そう、今こそお昼。氷室君が、ちょっぴり、でも優しいお昼。


 優しい、はずの。はず。



「ぼーっとしてたらお前のも食うけど」



 真顔だった。冗談とは到底思えず、慌ててあたしは首を振る。


 確かに滅多に笑う人じゃないけれど、これを真顔で言う人が、普通あろうか。