ケータイ小説 野いちご

恋よりも、

恋よりも、



「――原田先輩好きです! 付き合って下さい!」

「……ごめんなさい。気持ちは嬉しいんだけど、今は誰とも付き合う気はないの」

「そうですか……。あの、聞いてくれてありがとうございました!」


去って行く背中を見つめていると、無意識に溜息が出た。
『ありがとう』だなんて、お礼を言われる立場じゃないのに。
私のことを想ってくれているのに、それに対して僅かも心が動かない自分が嫌になる。嬉しいと言った言葉に嘘はないけれど、彼には別の人と幸せになってほしい。そう思ってしまう私は、無責任で勝手だ。

「まーた告白断ったの?」

「っ、加賀先生……」

不意に背後から掛けられた声に振り返れば、窓枠に頬杖をついたその人が、煙草を片手に心底気怠そうにこちらを見下ろしていた。

「……覗き見なんていい趣味してますね。というか校内は禁煙です。いくら放課後で誰も居ないからって、見つかれば注意だけじゃ済まないんじゃないですか?」

先生は空に向かって煙を吐き出し、その漆黒の瞳を鈍そうに動かして私を見つめてくる。眼鏡越しでも宿った鋭さが損なわれる事はない。

「此処、保健室。俺のテリトリーでんな事する方が悪い。つーかひとが一日の疲れを癒してる時に邪魔してきたのお前らだから。見たくもないもん見せられてむしろ慰謝料払ってほしいくらいだわ」

相変わらず言っている事が無茶苦茶だ。保健医とはいえ仮にも教育者なのに。

「……それはすみませんでした。でもそれと煙草は関係ありませんよね。保健室が煙草臭いって問題でしょう。そのうちバレますよ」

そう言えば、先生はふっと口角を上げ鼻で笑ってくる。

「なに、俺がんなへますると思ってんのかよ」

「その自信は一体何処からくるんですか……」

わかっているけれど。私が言うまでもなく、この人はあらゆる手を使い偽装工作と証拠湮滅を成し遂げるに違いないのだ。絶対頭の使いどころを間違えていると思う。

所詮、私では役者不足。この人を説き伏せるのは不可能。いや、私でなくとも無理だろう。だって先生が素直に他人の言う事を聞くのは、後に来るそれ以上の面倒事を回避したい時だけだ。先生が無条件で耳を貸す相手なんて……。あ、いや、もしかしたら……。

「先生は、彼女とかいないんですか?」


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