キジはどんどんと近づい
て来て、おじいさんの目
の前で止まった。

おじいさんは何も言えず、
動く事もできなかった。

それでもキジはおじいさ
んの傍を離れようとしな
い。

小さな小さな目でおじい
さんを見ている。

おじいさんは、ふと思い
ついて手をさしのべてみ
た。

それを待っていたかのよ
うに、キジがおじいさん
の手の平にキンカンを乗
せる。

おじいさんは訳がわから
ないまま何度か頷いた。

目的を果たしたキジは、
向きを変えてピョコピョ
コと少し跳ねてから大空
へ舞い上がった。

おじいさんは、今起きた
不思議な話をおばあさん
にしてやろうと思った。

それにしても今日はおば
あさんが遅い。

おじいさんは退屈しのぎ
に手の平のキンカンを取
り上げてみた。

濃い緑色のキンカンは見
るからに酸っぱそうだ。

おじいさんは、食べても
いないのに口をすぼませ
眉間にシワを寄せた。

その後、若い頃を思い出
して頬を緩めた。

昔はよくおばあさんと紅
茶を飲んだ。

ハチミツに漬けたキンカ
ンを丸ごと一つ入れて。