おじいさんは襖(ふすま)
を開けて縁側(えんがわ)
に出た。

秋の陽射しは穏やかで、
そよ風がキンモクセイの
香りを運んでくる。

「よっこらしょ」

おじいさんは、寄り添う
ように二つ置かれた座椅
子の茶色い方に座った。

おじいさんは、この茶色
い座椅子とおばあさんが
大好きだった。

いつものように庭を眺め
てから、おじいさんは目
をつぶった。

ゆったりと眠気がやって
くる。

おじいさんは、そよ風と
陽射しのベットに身を任
せた。

ほどなくして、おじいさ
んは何かの気配を感じて
目を覚ます。

「ん?おばあさんかい?」

ゆっくりとした動きで辺
りを見回すが誰も居ない。

「はて?」

おじいさんは首をかしげ
た。

「気のせいかな?」

おじいさんはもう一度、
目をつぶって眠ろうとし
たが、どうしたものかい
っこうに眠くならない。

「やれやれ」

昼寝の続きを諦めたおじ
いさんは庭に植えてある
キンカンの木を眺めた。

すると、木の幹の後ろか
ら見事な柄のキジが一羽、
顔を出した。

「これはこれは」

びっくりしたおじいさん
は座椅子を少し動かして
しまった。

その音に驚いたのかキジ
が空へ舞い上がる。