車や電車の走行音や雑踏ばかりが耳をつく。

人々の歩みは止まることを知らず、ただ目的地を目指して歩き続ける。


全てが忙しなく移動を始めるこの時間帯。
何の変哲もない朝の通勤、通学の風景である。

その中を長い黒髪を颯爽と靡かせて歩いている一人の少女、結咲和紗はこれから毎日この混雑の中に身を投じるのかと、不安と疲れを感じながら学校への道のりを歩いていた。


今日は全国の高校生が新たな一歩を踏み出す日である。
もちろん例外は有るだろうが、大概の高校一年生は今日から新学期となる。


和紗もその内の一人で、本日高校一年生となる。

和紗は胸の高鳴りを抑えるように深呼吸をし、髪の毛を整える。

真新しい制服も、靴擦れするローファーも、入学祝いとして父に貰った腕時計も、その全部が和紗の鼓動を速くする。


結咲家のある場所は、良く言うと落ち着いている、悪く言うと物が少ない。
そんな田舎チックな場所にある。
そのため都会の人ごみや通勤ラッシュなどが新鮮で、感慨深いのだった。