次の朝。

二人は部屋を軽く片付け、全ての荷物をサン.サルバドル島への飛行機に積み終えた。

人口たったの九百五十人。その小さな島は、クリストファー.コロンバスが新大陸発見後、初めて上陸した島だと言われている。

この世のものとは思えないほど、美しい原色と白の世界。
教会のロウソクの炎の形をしたその島には、ターコイズ.ブルーの海、真っ白に聳え立つデキソン.ヒル.ライトハウス、ワトリング砦、そして岬にある、大きな白い十字架がある。

宿泊先のホテルも用意されて、日常生活には事欠かず、ニューヨークのような大都市から来た人間にとってはとても魅力的な島であった。

二人は昨日のことなど無かったように、その風景の美しさに魅了されていた。

ただし、メイソン刑事が後ろからついてくるその状況を除いては。

撮影は島に着くなり始まった。

新進気鋭の監督の力作となるべく、現場は最初からピリピリとした空気が流れていた。

さくらは一瞬足りとも撮影現場付近を離れなかったが、ときとぎ、その重々しい空気で息苦しくなり、ホテルへと戻った。

ケビンはというと、メイソン刑事と病院で面識がある上、この一年以上もの間、さくらを警察へ通報しなかったことが、彼に強く罪悪感を感じさせていた。

それと同時にそのことについて、

「もし彼が自分とさくらとの関係を裂くような合法的な処置にでるとしたら…」

と考えると、とても彼を怒らせることはできない。

その結果、嫌がるさくらの周りをうろうろとついて廻るメイソン刑事には、文句一つ言えないままにいた。

外からは、まるでストーリーが全く把握できないような細切れな撮影スケジュールの中、さくらの思いをよそに着々と撮影は進んでいった。