月のない夜だった。


鬱蒼と茂る森の中にある小さな神社。

その裏には樹齢にして何千年も経たような大木があった。


幹は年輪を感じさせるように大きくうねり、岩のようにゴツゴツと粗い突起がいくつもある。


その大きな胴にはしめ縄が巻かれ、それと共に貼り付けられた何十枚というお札──


一見して神木だと分かるものだった。


その物々しい胴回りから目を落とすと、今度は大地に大きく張った根が蛸の足のように盛り上がり、張り巡らされている。


そして、その根と根の間に一つの洞穴があった。



小さいが、人が入れるほどの穴だ。



コオーン……コオーン……



音が闇夜に漏れてくる。


その穴の中から──



コオーン……コオーン……




もう何百年も昔の話、そんな音が聞こえていたことがあったという。