「こんばんは。」
「こんばんは……。」

何となく気まずくて、ついつい視線をそらしてしまった自分が嫌い。

雅人さんは気にしてないように笑って私の部屋へと歩いていく。

雅人さんの大人な対応にムッとして、でもホッとして、言いようのない気持ちが私を支配して、そんな私を心配したのか、雅人さんが私を手招きしてくれた。

私が隣に並ぶと、雅人さんが困ったように笑いながら、私に話かけてきた。

「昨日は電話にでれなくてごめんね。
ちょっと、色々と対応しなくちゃいけなくなっちゃってさ。」

雅人さんの顔からは、ひそかに疲労したような色がうかがえた。

「えっ、あのっ! 私、いつでも電話待ってますから!!」

ビックリしたような顔をしてから、雅人さんは、

「ありがとう。結菜ちゃん。」

会った時のような笑顔で、笑った。




「結菜ちゃんは、結構大胆なんだね。」

またもや、私が人様に大胆な事をしてしまったと気づく。

赤らむ頬を隠そうと、冗談まじりに雅人さんの肩を叩く。

「もー、からかわないでくださいよ!
先生」

ピシッと、雅人さんが固まる。
(アレ?私、悪いコトいった!!?)
私が焦ると、雅人さんはそれはもう、ゆっくりと振り向いた。

「雅人って呼んで?」

至近距離で見つめられて、うまく息ができない。

「まさ、とさん」

「雅人」

「まさ、と」

「うん、そう、よくできました。」

壁がなかったら、きっと私は後ろにのけ反ってしまっていただろう。