煉獄は罪の小さい者の行くところ。
それでも天への道のりは遠いところ。
マリアの導きなしでは、罪の浄化も、天への道も開かれない。


地獄の河原と言っても、川はない。
あるのは干上がった小さな川に、それを挟むようにして立つ痩せた林だった。

煉獄というだけあって、地獄の中心ほどは熱くなく、どちらかと言えば過ごしやすい。
緑があるのもおそらく、地獄の中でもここだけだろう。

そしてこの緑の奥に天へと通じる道はあるのだが、今はその道が見えなかった。


先導者なくしてその道は開かれない。


そういうことだった。



そしてその場所に、見たことのある顔はいた。


「おいっ。オダケン」


あえて小田先生とは呼ばなかった。
相手にしたら、自分は見覚えのない顔だ。
確かにマリアとともに悪魔に身を変えたこの人物と対面し、その身を祓ったけれど。
その記憶を持っているのかも分からなかったし、とりあえずこの呼び方をすれば、マリアと関わりがあることは相手に伝わるはずだった。



薄い白髪頭のじーさんがゆっくりと振り返った。



悪魔にされた顔とはまるで違う。
穏やかで物静かそうな男だ。


「あんたは……確か天林寺と一緒に私を救ってくれた……?」


姿が微妙に違うからなのか、オダケンは戸惑っているようだった。


「普通の人間が悪魔になったおまえと対決できると思うか? 自分はミカエル。おまえをここから連れ出すために来た」