「栖栗!」


夕方、茜色の空の下、少しだけ掠れた声がしたので振り返る。


声の主は、高校三年生にしてはやや高めのテノールだが、本人は全く気にしていない。

彼は、紺色のブレザーに、同色のサテン地のネクタイを締めてチェックのスラックスを履いている。


ブレザーの左胸のポケットには、金色の糸で高校の校章が刺繍されていて、端から見ればおしゃれな方だ。

一方、栖栗と呼ばれた少女は紺色のセーラー服に真っ黒なリボンという、地味な制服を身に纏っていた。

栖栗は中学三年生、受験勉強に追われる身だが、今はまだ進級したばかりで、なかなかそんな自覚が持てないでいた。




「どうしたの“ソレ”」


栖栗は“ソレ”を目を丸くしながら、まるで宇宙人でも見るかのように顔を引きつらせた。

そして、うなじにかかるか、かからないかくらいの短い髪を揺らし、一歩、後退り。

そんな彼女の明らかすぎる動揺に、彼は無邪気に笑った。