「…………」



気にいらねぇ。

店の奥のイスに腰をおろし、いつものように指輪のデザインを考える。


机に向かって白紙の紙をジッと睨んでいた俺は、大きく溜息をつくとチラリと視線を店内に巡らせた。



「え? これ、ケンゾーさんが作ったんですか? すごーいっ!」

「そうでもないよ。 こんなのはまだ作り始めた頃ので……ほら、こっちが最近完成したもの」

「へぇ~……こんな形見たことない……」




薄暗い店の中で、オレンジの照明が二人の顔を照らす。


ジッと指輪を見つめる未央の顔に、近づく男。



「……んだ、あれ」



俺が何やってるか見に来たんじゃないの?
眉がピクピクと痙攣し、目頭をキュッと押さえた。



「まぁ、そうイライラするな。 ずっと眉間にシワがよってるぞ」



その声と同時に、ユラユラと湯気を立てたコーヒーが視界に入った。

顔を上げると、マスターが苦笑いをして意地悪く笑った。



「……マスター……あのケンゾーって奴、いつからこの店に出入りしてんの?」



顎でクイッと店内を見て回ってる二つの影を指した。



「あー……そうだな、もう今年でまるっと三年になるか」


「……ふーん」


「アイツもお前みたいに穴があいちまうんじゃないかって程、見入っててな。
俺が声をかけたのさ。 興味あるかって。 それからだ、この店で創作活動していくようになったのは。 今じゃ自分の家にアトリエ作ってそっちでやってるやしいが」


「…………」



なんか、すっげぇ負けた気分……。