雨が降り始めていた。

今年初

センター入試を意識した模擬テストに臨んだ蔵持七海は試験中にもかかわらずガラスに叩きつけられる雨音に視線を投げた。


向こうの景色が透けるようなガラスの瞳が真っ直ぐに会場の外の景色を見つめた。

視線を投げれば手も止まる。

一瞬何かにとりつかれたように、七海は外の景色を見つめてしまった。

理由は簡単だった。

天気予報を見ずに模擬試験に臨んでしまった。



傘を持ってきていなかったのだ。

雨音の誘いを振り切り、七海はマークシートへ視線を戻す。

塗りつぶした黒い楕円が、七海には音符に見えた。

だが呑気に鼻歌など歌うような余裕などなかった。


試験終了までの時間を巻き直して目算すると

再び鉛筆の芯の消費に取りかかった。


七海は、高校3年。


模擬試験会場から2つ隣の駅にある、立幸館高校に通っていた。

立幸館高校は地元私立では有名でかわいいデザイナーの制服で、女子から圧倒的な人気があった。

ここ一帯の高校なら、学力なら二条西、人気なら立幸館というのは常識だった。

だが七海は、制服で立幸館高校を選んだわけではなかった。