会社帰りの男たちで賑わう小さな居酒屋の中では、タバコの煙と雑多な会話が交じり合い、疲れと不満と、そしてひと時の安堵に包まれていた。

「あさきっつぁん、生四つね」

「ほーい」

 店主はカウンターの中の小さな厨房の中で手を休める間もない。次々と食材を焼き、炒め、揚げては立て続けに皿に盛り、客を呼びつけてその皿を取りに来させていた。

 頭にバンダナを巻いた無骨で大柄な店主ではあったが、その人柄に客が惚れ、平日でもかなりの賑わいを見せている。狭いテーブルよりもむしろカウンターに座って店主と話したがる客が多く、従って手も口もが常にフル回転しているのだった。

 やっとオーダー最後の揚げだし豆腐を作り終えると、店長である浅野藤吉はそのむさいカウンターを見渡し、心の中で愚痴をこぼした。

ちなみに客からは名前を略して『あさきち』の名で呼ばれていた。