若侍は庄左右衛門の屋敷の居間に通された。捨吉が主人と修理を捜しに行って戻ってきた。

 済まなそうに言った。
「お侍はん。儂はこの二日、野暮用でお暇を貰ってたんで知らんかったですが、お殿様と修理様は近江の石山寺へお参りにいらはってます。明日くらいとは思うがいつ戻るかは分からん、と賄いの婆は言ってました」
「そうですか・・・では出直してきます」

 捨吉は泊まらせてくれとこの若侍は言うと思っていたので、意外な顔をした。これは本当に知り合いなのかも知れぬ。
「・・・お侍はん。どうでっしゃろ。泊まっていきなはれ」
「え・・・でも」

「お殿様の書き置きがあり、儂は留守中はこの屋敷を任されたんや。よかったらお殿様達が帰るまで泊まっておくれなはれ」

 帰る寸前にこいつは逃げ出すかも知れないが、まあ二、三日ぐらいの飯ぐらいどうと言うことはない。また、自分の目がどのくらい確かか知りたかった。
 だが若侍は断った。
「明日の午後、また来ます」

(ふーん、結構堅いのう。ひょとすると本物かも)