あの日あの後、ジルはあたしを抱き締めるような格好で眠りに落ちてくれた。


ホント、誰かと夜を過ごすことなんて一体いつ振りだっただろう、こんなにも心地の良いものだったのか、と思わされたのだ。


基本、女には優しいのだとか言ってたし、甘えれば受け入れてくれるジルは、やっぱり嫌いにはなれなかった。


結局寝たのは明け方で、お昼くらいに起きて、そのまま仕事に行く準備をすれば、ジルもさっさと帰って行ったのだ。


それにしても、アイツはあたしに一体何を求めているのかな、なんてこと時々思う。


イチャつきたいなら彼女とラブった方が早いだろうし、それ以前にあたしとセックスって言ったって、アイツは多分、女には困ってないだろうし。


奢ってくれたりたまに優しい言葉をくれたりして、本当に何を考えているのかがわかんないのだ。



「レナ、どしたの?」


ふと、弾かれたように顔を上げてみれば、葵がこちらに向かって首を傾げていた。


葵は同い年で、おまけに入店した時期も同じくらいで、あたしにしては珍しく、仲良くしている友達に近いもの。


まぁ、彼女の本名もまた、知らないわけだけど。



「ん、色々とね。」


「…男だぁ?」


「だから、色々だってば!」


そう、わざとぶっきらぼうに返せば、彼女はクスクスと笑みを零していた。


だけども最近、あたしはジルのことばっか考えてるよな、なんて自らに突っ込みを入れてしまう。


まだ開店前で、女の子たちは忙しそうに携帯をいじってるけど、あたしはと言えば、先ほどからずっと上の空だったのだから、まぁ、聞かれるのも無理はないとは思うけど。



「ついに彼氏作る気になった?」


「…勘弁してよ。」


「勿体ないよ、レナ。
この仕事理解してくれる人だっているんだし、やっぱうちらだって安らぎは必要だよ?」


安らぎ、なんて言葉でジルに抱き締められて眠った日のことをまた、思い出してしまう。


確かにそんなのが必要だってことは、自分自身、わかってるんだけど。