「爺さん、大丈夫か?」

 修理が中間に近寄って聞いた。辻斬りの三人は呻きながら倒れている。

「へ・・・へえ・・・有り難う御座いますだ」
「近くに番所はあるのか?」

 すると腹を押さえて震えていた緇小袖が、震える声で言った。
「お、お待ち下さい!」

 修理が振り返って睨み付けると、
「・・・お許し下さい!我等が間違っていました!御屋形様だけはどうかお見逃し下さい!」

 頭を振って起きあがったもう一人の若者に怒鳴った!
「主膳様!御屋形様を早く連れて行け!私はここに残る!」

 びっくりした若者は刀を拾い白頭巾の所へ行った。白頭巾の刀を腰に納めると腰を抱いて上京の方へ逃げていった。
 緇小袖は修理の前を妨げる様に膝を突いていた。そしてじっと修理を見つめる。その目は主人を思う真摯さを表していた。しばらく二人は見つめ合っていた。

 主人が逃げおおせたかと思われた頃に、
「・・・さあ、私をご存分にして下さい。手向かいは致しませぬ」
「では・・・後ろを向け。戒めて役人に渡す」
 緇小袖は観念した様に道の上に後ろ向きに正座し、両手を腰の所で交差させた。

 似ている・・・修理は静音の後ろ姿を思い出した。長い黒髪・・・白いうなじ。凛と反った背に括れた腰・・・空腹もよそに股間が熱くなった。

 刀の下げ緒で後ろ手を戒め、立たせた。背格好も静音と同じくらいか。

 中間が恐る恐る緇小袖に近寄り顔を見る。はっとして、
「あ!あなた様は不破様!」