道場には上座の神前に師が胡座で座っている。その横の床に、二人づつ左右に高弟が正座していた。さらに右隅の壁伝いに同座を許された門弟が数人正座している。静音もその中にいた。
 道場の師の前に対峙しているのは、認可を試される門弟と師範代の修理である。
 その大柄の門弟は小太りで背中の筋肉が小山のように盛り上がっているが、車の構えから明らかに少し背を丸めている。ふうふうと小刻みに息を突き、月代の肌からは玉の様な汗が出ている。
 反対に修理は静かに正眼に木刀を付ける。その気迫には到底、相手の放つ気合いなど敵わない。
 ふと修理は木刀を揺らせすきを作った。門弟ははっとして、その次の間にえいやっと修理の小手に逆に木刀を廻して付けた。門弟は木刀を修理の腕に擦り付けたまま右足を引き腰を落として残心を取る。
 ほうという溜め息が道場に流れる。
 互いに正座で礼をした後、門弟をそのままにして修理は師の前に畏まった。
「お師匠様・・・次郎三郎殿に認可を授けてもよろしいかと」
 師匠は朧にしか見えない目を巡らせると、うむと言って席を立った。
(・・・おかしい)
 静音は思った。
 修理は確かにすきを作った。しかしそれは小手を打たせるためではない。数十種にも及ぶ組太刀をこなした後、最後の形無しの数本のことだ。容易(たやす)すぎる。だが、師と高弟の手前、それを口に出すことは出来ない。