その翌日から静音は変わった。
 道場で出会っても挨拶もせず修理を無視した。修理が講話をするときも横を向いて聞いてないようだ。
 思いあまって注意をしたところ、静音は蔑むように言った。
「心の修養を積んでない人にそんな講話を聞いてもぴんとこぬ。剣で本当にそうなのか教えて申せ!」
 居並ぶ門弟はびっくりとした。身分が低いと言いながら、修理の剣は師匠のお墨付きが付くほどだ。目の弱くなった師匠に連れられて時々、御屋形様の指南の補佐も勤める。

 二人は道場で対峙した。
 剣の道では格上の修理が、打太刀(わざと打たせ相手の技術を磨かせる組太刀の役)、静音は使太刀(打太刀に打ち込み勝つ勢法を磨く)。
 しかし二人が構えを取った途端、真剣勝負の様な気勢に入った。
 静音は本気で打とうとしている。打ち太刀は本来すきを見せ、そこに打ち込ませるのだが、今の静音に本当に打たせればただでは済まない。静音の身体から殺気が押し寄せる。
 修理はすきを見せることは出来なかった。すきが無ければ他の所を攻めて来る。
 よってこれは組太刀の形を借りた真剣勝負となる。

 静音の足が疾風の様に動いた。
 八艘の構えから木刀が大きく弧を描き右肩が水平に回る!
 左手は自分の身体の中心線上に常に留まっている。見事な順の切りで、刃筋正しく木刀は修理の左肩を狙って袈裟を斬る。真剣ならば修理の身体は真っ二つになるだろう。初心者ではこの斬りは絶対に出来ない。
 足の踵、腰、背骨の絶妙な連動と肩の水平運動、ナンバの調子が一致した時に岩をも砕く破壊力が木刀に乗るのだ。