「おい・・・来てるぞ。師範代殿が」
 静音は門弟達の声を聞いて道場の下座を見た。
 四十九日の喪が明けて、修理が普段着のまま道場の入り口に正座をして、稽古の終わりを待っていた。稽古が終わると師の前に進み出て喪が明けたことを告げる。そして、
「この場でお暇(いとま)を頂きたく存じます」
 片付けで残っていた静音と数人の門弟は驚いて動きを止めた。
 師は目尻に深い皺を見せて苦渋の表情をした。そしてほうと溜め息を突くと、
「・・・そうか・・・行くのか。餞別にこれをやろう」
 自分の脇差しを抜くと修理に差し出す。
「・・・お師匠様!そのようなことは!」
「お前は一流を為すことが出来る筈じゃ。儂の剣を見事、越えてくれい」

 修理が帰った後、道場の一部屋に話を聞いた連中が集まってきた。修理を常から良く思わぬ譜代家臣の子弟が殆どだった。下級武士の門弟は怒鳴られて帰らされた。
 この連中は徒党を組んで町を練り歩き、喧嘩をして騒動をよく巻き起こしていた。道場剣法よりも自分らの喧嘩剣法のほうが実践的だと信じ、何よりも理由を付けて人を斬りたいと願っていた。