「土曜日の牛乳のおやつは小魚アーモンドかミル○ークコーヒーに決まっているだろうっ!」

オペラ歌手ですか? と尋ねたい低いバスの声で、目の前の男は俺、時田楓(ときた かえで)に黒板消しを投げつけてきた。

突然だが、一つだけ言っておこう。
俺は避けるのは大の得意だ。
昔はドッジボールをやると必ず最後まで内野だった。必ず最後まで残るため、クラスの皆には『ドッジの帝王』と呼ばれていたくらいだ。
今思えば、どちらの帝王ですか? と聞きたくなるくらいに意味不明だ。

そんな俺だが、目の前の男が投げつけた黒板消しは避けずに当たっておいた。
理由は簡単。当たらないと、後が大変だからだ。
俺に目掛けて飛んできた黒板消しは頬に当たり、チョークの粉塵が舞う。

「げほっ、いってぇーっ!」

チョークの粉塵に咳き込みながら、俺は叫んだ。
本当に痛かった。思わず、涙目になってしまったくらいだ。

「痛いだろう。ふっふっふ。それが、先生の怒りと悲しみの痛みだ!」

眼鏡を光らせ、目の前の男は不気味に笑った。

「意味が分からないって! 何だよ、怒りと悲しみの痛みって。というか、先生が生徒に本気で投げることないだろうっ」

俺は目の前の男に向かって言い放った。ついでに、勢いに乗ってしまい、机を叩いてしまった。
仕方ないんだ。
これも全て、目の前の男――草壁詩朗(くさかべ しろう)という名の先生が悪いんだ。