その後はある種の使命感を持って二人の様子を見守った。一秒たりとも見逃すまいと目を凝らすと段々と瞳が潤んでいく。一度思い切り目を瞑って再び見開く。これを何度も繰り返した。
 私のいる場所から二人の会話が聞こえる訳もなく、楽しそうに立ち話をしていることは分かるけれどそれ以上は何も分からなかった。どうせなら決定的な何かが起こってしまえばいいのになんてことを思っていると、二人に動きがあった。
 宮部君は女性から比較的大きな紙袋を受け取ると、今度は元々彼が持っていた同じくらいの大きさの紙袋を渡し返した。プレゼントにしては二つとも質素な気がするし、照れ臭そうにする訳でもなく、どちらかというと業務的に見える二人の様子からすると、おそらく()だ。

 それから程なくして二人は解散した。一人で宮部君に話しかける勇気もなく、私も彼らと一緒にその場を後にする。結論からすると、浮気は友梨ちゃんの勘違いだと思う。だけど実際に宮部君が例の女性と会っているのは事実で、おそらくあの日友梨ちゃんに嘘をついたのも本当だろう。

 飯村君からの連絡を待つ私の頭に母の顔が浮かぶ。探偵を勧めたくなるほど勘が鋭い母ならこの謎を解けるかもしれないと思ったし、現時点で全く検討のつかない私には母のその血は受け継がれてないことを悟った。

 スマホの振動は午後九時を回ったところで寝かけた私の耳元で起こった。

「遅くなってごめんね。今大丈夫?」

 家に帰ってきたばかりなのか鍵の音が電話越しに聞こえる。

「うん、大丈夫。お疲れ様」

「ありがとう。あれからどうだった?」

 さっそくなんだけどと言わんばかりに彼はすぐにその話題に入った。私は白だと思うことを先に伝えてから、彼が去ってから起こった一連の話をしていく。彼は時折相槌を入れながら真剣に聞き耳を立てた。

「その紙袋には何が入ってるんだろうね」

「うん、それは私も気になってる」

「だよね。それでさ、宮部からさっき連絡きて明日会うことになったんだ。浅倉さんも一緒にどうかな?」

 彼にそう言われて、そういえば昼間宮部君に連絡していたことを思い出した。すっかり忘れてしまっていたけど、私たちはそもそも本人から聞き出そうとしていたのだ。その誘いに私が二つ返事で了承すると、彼は「じゃあ明日も会えるね」と喜んだ。

 それから私たちは三時間近く話し続けた。彼が参加した企業説明会にいた意識の高そうな就活生の話や、私のバイト先に来る原田さんという以前コーヒーをこぼした女性の話など、お互いが出会ったちょっと変わった人の話で盛り上がった。
 なんてことはないこの会話に意味を求められるとその答えはきっとないけど、そんな会話をするこの時間が幸せだった。名前のないこの関係は、程よく近くて程よく遠い彼との距離を感じさせた。幸せなはずなのにその裏で切なさが押し寄せるのは、きっとこの距離感のせいだと思う。