家に帰ってからの私は正直浮かれていた。飯村君とまた会えたこと、話ができたこと、私のことを気になると言ってくれたこと。その全てが嬉しかった。
 そう思う度に私の心が『匠真』と叫び、記憶が匠真を呼びおこす。飯村君と関われて嬉しいと思うのは、やはり彼を匠真と重ねてしまっているからだろうか。

 だけど違う。彼はあの(・・)匠真じゃない。だって彼は東京で育ったと言っていた。私の知っている匠真は、あの小さな公園のある町で私と一緒に育った。だからやっぱり飯村君は、違うんだ。
 そう思うと身体中の力が一気に抜けて、そのまま私は眠りについた。



「——琴音!琴音!」

 私をそう呼ぶのは誰なのか。そんなことは考えなくても分かる。私の目に映るのは、またもや制服姿の匠真だった。ブランコに座る彼に陽が差して思わず瞼を閉じそうになってしまう。私は左手で陰を作り、ブランコの方をしっかりと見た。
 うん、間違いない。匠真の隣にやっぱり誰かがいる。その顔がちらつく度に難解パズルを解くような気持ちになった。

 木々が揺れ、小さなざわめきが聞こえた瞬間(とき)、ふわりと舞うように吹いた一瞬の風がその正体を暴いてくれた。——私はこの人を知っている。吸い込まれそうな瞳を、だけどどこか寂しげで何かに怯えているような瞳を、私はしっかりと覚えている。

「飯村君……?」

 私の言葉に彼はすぐに反応した。そしてその瞳で私の顔を捉え、優しく笑いかけた。
 あぁ、やっぱり君は匠真に似ている。その優しい笑顔も、少し怯えた瞳も、私の知っている匠真にそっくりなんだ。どうすれば私は二人を重ねずにいられる?そんなことを聞いたら、きっと君たちは戸惑うだろうけど、できることなら教えてほしい。

 飯村君、君は何者なの?本当に私たちは最近出会ったの?君は、君は……。

「浅倉さん、俺に君の知ってる匠真君を重ねないで。俺は彼じゃない」

 そう言って彼はブランコから立ち上がり、そのまま去っていった。私の方も匠真の方も振り返ることなく小さくなっていく彼の後ろ姿は、とても寂しそうに見えた。

「今の人、琴音の知り合いなの?」

 そう尋ねる匠真もまた寂しそうな顔をしていた。それを見てまた二人を重ねてしまう。重ねないでと言われても、そんなことは不可能だった。私は心の中で飯村君に謝る。

「うん。ちょっとだけ、知ってる人」

 匠真の問いに私がそう答えたところで目を覚ました。
 夢の続きって見れるんだと感心しながら、この前はわからなかったパズルが解けてすっきりした朝が迎えられた。

 匠真の隣にいた人は飯村君だった。なぜか私はそれがとてもしっくりきていた。