「どうしてこの程度の問題が解けないんだ。遊んでいる暇があるなら、勉強しろ。勉強ができない奴に、価値なんてない」

 ごめんなさい、お父さん……

「いつまで子供でいるつもりなの。奈穂はすぐにできたのに。貴方は物覚えも要領も悪いのね。本当、使えない」

 ごめんなさい、お母さん……

「奈穂だけでよかった」

 そんなこと、言わないで……ちゃんと頑張るから……

  ◆

 目が覚めると、息が乱れていた。

 寝て起きたら、夢なんて忘れてる。そういうものなのに、今回は最後のお父さんとお母さんの言葉な脳裏にこびりついている。

『奈穂だけでよかった』

 これが残っているのは、似たようなことを言われたからかもしれない。

 姉が優秀だと、比べられるほうは迷惑でしかない。せめて欠点でもあってくれれば、恨まずにいられたかもしれないのに。

 お姉ちゃんは、すべてを完璧にこなして、今は大学に通うために家を出ている。

 それも、看護科に通っているから、余計に私の肩身が狭くなっている。

 そんなことを思い出していたら、急に胸が苦しくなってきた。

 私は重たい体を起こして、深呼吸をする。

『つまらない奴だな』

 最悪なタイミングで、最悪な言葉を思い出してしまった。

 それはまるで魚の骨が喉に刺さっているみたいに、頭に残っていた。