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「美和さん、昨日はすみませんでした」


 翌日、きちんと美和さんに頭を下げて早退したことを詫びれば、彼女は左手をひらひらと綺麗に振って「気にしないで」と笑顔で言ってくれた。


「虹磨さんに連れ去られたんだもん、絢音ちゃんは悪くないわ」


 結局、私がそのままにしていた仕事はすべて美和さんが処理してくれたようだ。
 急ぎではないし雑用だったのだから、残しておいてくれてもよかったのだけれど。


「虹磨さんの長い足に蹴りでも入れてやりたいところだわ」

「え?!」

「絢音ちゃんがいないと私の仕事が回らないの。それなのに独占するなんてずるい!」


 笑いながら美和さんはカタカタとキーボードをたたき、私に資料作りの手伝いを頼む。


「昨日、どこに行ったの?」

「海です」

「あの人、海好きだからねー。寒かったでしょ」