告白する決意をしたのは良いが、どうやって呼び出すかなぁ?と私は絶賛頭を悩ませているところだ。
 クラスのチャットグループはあるのだけれど、そこから勝手に個人の友達登録はしてはいけない。それは暗黙のルールというものだった。

「で、結局直接呼び出すことにしたのね?」

 何度考えてもそれしか思い浮かばなかった。悲しいかな、私の通っている高校には上履きがなく、通学靴そのままで校内に入っていた。そうなると必然的に下駄箱がないのだ。ということは、だ!下駄箱に手紙をこっそり忍び込ませるという技が使えないということだ。個人の連絡先を知らない場合の呼び出しに使うランキング第一位の下駄箱がない!そうなればもう、直接声をかけるしかなくない?というのが私の考えだった。ちなみに、ランキングは私調べである。

「そう。もうそれしかないじゃん?幸い同じクラスだから、チャンスには恵まれてるしね」

 「たしかに」と頷いた亜美ちゃんに私は「しかも」と続ける。

「今週から私たちは掃除当番なのでーす」

 ぱふぱふー、とめでたいラッパの音まで真似をして告げれば、想像通り、亜美ちゃんは冷ややかな目を私に向けた。いいの、ちっとも辛くないから。
 一週間ごとにローテーションしていく掃除当番は、出席番号順で班組みをされていた。明石と洗井は前後なのでもちろん一緒の班なのだ。たった10分だが貴重な時間である。本当に明石に生まれてきてよかった……お父さん、お母さんありがとう、という気持ちである。

「今までは緊張してあんまり話せなかったからさ……今日から頑張って少しでも仲良くなって、金曜日に呼び出すよ」
「うん。頑張ってね。……で、どこで告白するつもりなの?」

 ん?どこで??亜美ちゃんの言葉を復唱し、ハッとする。「全然考えてなかったー」と誤魔化すように笑えば、「金曜日なんてすぐだよ」と亜美ちゃんが急かす。確かにそうだ。一日なんてあっという間。そのあっという間の一日がたった5回だ。

「今すぐ決めよう!亜美ちゃんアイディアお願い!」

 私は瞬時に思考を放棄した。ほら、金曜日なんてすぐそこでしょ?一分一秒を争うなら、効率良くいかなくちゃね。
 恋愛偏差値底辺の私より、美人でしっかり者で、クールに見えて実は情が深い亜美ちゃんに頼った方が、すぐに良い案が出ることは間違いなかった。
 亜美ちゃんは「仕方ないわねぇ」と言いながらすでに考えてくれているようだった。ほんとに優しい。大好き。私が男だったなら、亜美ちゃんを彼女にしたい。

「洗井くんて部活入ってたっけ?」
「バスケだよ、バスケ!」

 洗井くんの知っている情報なら、私は瞬時に答えることができる。

「じゃあ、19時終わりぐらいか。それまで私の家で待って、近くの公園に呼び出したら?」
「いいのっ!?」
「期末テストも終わって時間あるし、いいよ」
「亜美ちゃん、大好きっ!」

 ひしりと亜美ちゃんに抱きつけば、私の大袈裟な反応に苦笑いを漏らした亜美ちゃんが「応援してるよ」と口にした。優しい。好き。
 亜美ちゃんの家から近い公園、それ即ち、洗井くんの家からも近い公園、ということである。なぜなら、亜美ちゃんと洗井くんは幼馴染だからだ!……うらやましい。
 亜美ちゃんに言わせれば、「ただ小さい時から知ってるってだけで、たいして仲良くないよ」ということらしいけれど。それでも、私が望んでも手に入らない特別ポジションを持っている亜美ちゃんのことが、心底うらやましい。
 だって、幼稚園の洗井くんも、小学生の洗井くんも、中学生の洗井くんも、見たかった。