夏休みの勝者になるためには、どれだけ効率良く宿題を終わらせるかにかかっているな。
 今までの夏休みには絶対にしなかった宿題計画表というものを立てた私は、そう意気込み早速宿題に取り掛かる。
 
「洗井くん、なにしてるんだろ……」

 しかしすぐに挫折。寝ても覚めても洗井くんのことばかり考えてしまうのだ。なにしてるだろ、って部活だよね。
 帰宅部の私とは違い、洗井くんはバリバリの運動部であるバスケ部に所属しているので、夏休みが始まったとはいえほぼ毎日学校に通うことになると言っていた。
 それに、夏休みの前半と後半に数日間ずつ図書室を開室する日があるみたいで、委員会の仕事もあると言っていたことを思い出す。いくら当番制とはいえ忙しそうだ。
 同時に「時間があったら図書室おいでよ」と誘ってくれた昨日の電話が蘇る。嘘。本当はずっと頭にあった。3日後の月曜日。その日の13時から15時までが洗井くんの担当。早く会いたい。月曜日が待ち遠しい。
 洗井くんと会える日を心の底から楽しむなら、やっぱり今できることをやらなくちゃな、と先程放棄した宿題に再び取り掛かった。


 たった4日だ。夏休みが始まって4日、洗井くんの顔を全く見ない日がたった3日続いただけなのに、私はもう会いたくて会いたくて仕方なくなっていた。
 電話は毎日しているのに、声を聞けば聞くほど会いたくなる。

 月曜日の朝、私はいつもより早く起きて、今日洗井くんに会えるという喜びを噛み締めていた。


 
 「学校の図書室に行ってくるから」と、午後出勤のため、まだリビングにいたお母さんに声をかけて家を出る。私の口から図書室という単語が出てくるとは夢にも思っていなかっただろうことが、お母さんの大きく開いた目から伝わってきた。
 だけどお母さん、驚くことはなにもないのだ。私は図書室に本を借りに行くのでも、勉強をしに行くのでもない。ただ大好きな彼氏に会いに行くだけなのだから。お母さんの考えている通り、私は勉強嫌いな子供なので、そこは安心してほしい。……安心??

 とにかく、私は大好きな洗井くんに会いに行くのだ!


 洗井くんと付き合ってるからというもの、自転車のペダルが軽い気がする。早く学校に行きたいという気持ちがそうさせているのだろう。
 蝉の鳴き声だって、ジリジリと肌を刺す日差しだって気にならない。恐るべし、洗井くんパワーである。